宇野亜喜良 展 『ぼくはへいたろう』
福音館書店「こどものとも」1994年8月号で刊行された絵本(文:小沢正 「稲生物怪録」より 絵:宇野亜喜良)が2002年にビリケン出版より再版された。再版は大抵の場合、原画やテキストにはあまり手を加えないことが多いのだが、「こどものとも」とビリケン出版の絵本では版型が違うので修正が必要だった。絵を担当した宇野亜喜良氏は「こどものとも」で描いた絵をそのまま使用することではなく新しく描き下ろしたいと自ら提案した。テキストはすでに入っているので「新ぼくはへいたろう」をためらうことなく仕上げられた。ところが「新ぼくはへいたろう」は編集者からNGが出てしまった。読者をこどもと想定しているビリケン出版の絵本にはこの新しいへいたろうは少し大人びた表情過ぎたことが原因のようだった。へこたれない宇野氏は怒ることもなく「そうですかではも一度」とさらに2週間後には出版社に「新々へいたろう」を抱えていった。
後日談として、「イラストレーターとして何十年仕事をしていてNGを出されたのは生まれて初めての経験」と宇野氏。「そ、そんな、大それたことしちゃったの・・・」とビリケン出版。NG版の「へいたろう」世に出るべくして出なかった作がお蔵入りしてしまうのはあまりにもったいないということで、『ぼくはへいたろう』 「こどものとも」版、ビリケン出版版、NG版の3作を一堂に展示することになりました。同一のテキストを1人の作家が3通りに描く。どれもが斬新で違うテイストに仕上がっているところがみどころです。
『ぼくはへいたろう』ものがたりの内容
昔、へいたろうという子どものさむらいが山へ肝だめしに行きました。平気な顔をして戻ってはきましたが、どうも化けものをいっしょに連れてきたようで、毎晩化けものが出ます。座敷に水があふれたり、天井がじりじり下がってきたり、布団の上に女の首だけが出てきたり……。でも、何がおきてもものおじしないへいたろうの活躍が痛快。
稲生物怪録とは(http://www2.cc22.ne.jp/~ami/ami/inou.htmより)
「稲生物怪録(いのうもののけろく)」は、江戸時代の三次(現在の広島県三次市)を舞台に創作され、国学者の平田篤胤らも愛したとされる妖怪(ようかい)物語である。主人公は、広島浅野家の支藩だった三次藩の藩士稲生武太夫(ぶだゆう)。武太夫が十六歳の少年で平太郎と呼ばれたころの妖怪談である。旧暦の7月、平太郎の屋敷に三十日間にわたって老女の大首や一つ目など、さまざまな化け物が出没する。平太郎少年は妖怪を次々と退け、最後は妖怪の魔王から木づちをもらう、という話。一カ月もの間、妖怪が出続けるという内容は他に例を見ない。その内容の「奇想天外」さから、江戸時代、平田篤胤によって広く流布されていただけでなく、明治以降も泉鏡花や折口信夫らによって作品化した。最近では小学館から民俗学者の谷川健一氏が三次に現在残る「稲生物怪録絵巻」を紹介した冊子を発行するなど、多くの作家、研究者の心を引きつけてきた物語である。
妖怪物語というと、「根」も「葉」もない空想話と取られそうだが、現存した武太夫が回想録として書き記した「三次実録物語」が、広島市在住の子孫の手元に現存する。武太夫の同僚柏正甫が武太夫から聞いて書いたといわれる「稲生物怪録」の原本 や「稲生物怪録絵巻」などが三次市内にも200年以上たった今も、後世に伝えられている。
宇野亜喜良プロフィール
1934年名古屋生まれ。
少年時代、春陽会の画家・宮脇晴に師事。名古屋市立工芸高校図案科2年生の時、新聞で制作作品がとりあげられる。19才でデザイナーの登竜門ともいうべき、日宣美に入選。21才(1955年)の時上京、1年後カルピス食品工業宣伝部に入社。この年、 日宣美展特選。東京会員となる。1960年、日本デザインセンター設立とともに入社。4年後退社、横尾忠則、原維夫とともにスタジオ・イルフィルを設立するが翌年解散。和田誠、横尾忠則ほか数名と東京イラストレーターズクラブを設立するなど、イラストレーターの地歩を築く。主な受賞に1956年日宣美展特選、1960年日宣美会員賞、1966年東京イラストレーターズクラブ賞、1982年講談社出版文化賞挿絵賞、1989年サンリオ美術賞、1992年第6回赤い鳥挿絵賞等。1999年紫綬褒章受章。主な著作に「海の小娘」(1962年・朝日出版社/文・梶祐輔、共著・横尾忠則)、絵本「あのこ」(1966年・理論社/文・今江祥智)、「宇野亜喜良の世界」(1974年・立風書房)、「宇野亜喜良マスカレード」(1974年・美術出版社)、絵本「天使のパヴァーヌ」(1992年・白泉社)、句集「大運河」(1993年・トムズボックス)、宇野亜喜良全エッセイ・薔薇の記憶」(2000年・東京書籍)など。近年の絵本児童書では、「きねこちゃん」(教育画劇・今江祥智/文)、「ぼくのスミレちゃん」(旬報社・今江祥智/文 )、「寝すごしたサンタクロース」(小学館・垣内磯子/文)、「おみまい」(ビリケン出版・矢川澄子/文)など。
広告宣伝の分野のみならず、出版、舞台など、多方面で活躍、その独自な耽美的作風で多くのファンを魅了している。
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